四〇○年 時空の旅人
(Joy since 04.01.2003)
歌舞伎発祥400年。阿国は当時最先端の変わり者、つまり“傾(かぶ)き者”だったのに、今では伝統芸能なんて骨董品めいた響きに敬遠されがちな歌舞伎。とはいうものの江戸時代から生きてる役者がいるわけじゃなし。80歳超のベテランもいるが平成生まれの子供まで幅広い年齢層の現代人が演じてるんだもの。コンビニに携帯電話の普通の生活から江戸の暮らしへと、自在に行き来し変身する歌舞伎役者はまるで時の旅人のよう。そんな旅をちょっとのぞいてみよう。旅人のひとり、坂東弥十郎さんに根掘り葉掘り。(Joy)

弥十郎さんインタビュー第四弾

ここ数年の納涼歌舞伎の牽引車である勘三郎さん。歌舞伎座での3ヶ月連続襲名披露に続き7月は大阪松竹座で襲名のご披露と大きな舞台が続いており、今年はお休みだろうと大方の予想を裏切っての出演。しかも串田さんの歌舞伎座初演出とあって、例年以上に賑わっている木挽町界隈でお話を伺ってきました。 納涼のことだけではなく、5月の襲名披露千穐楽のことや6月のコクーン歌舞伎のこと、飛び入り出演された舞台のお話まで、いろいろなことを根ほり葉ほり。

(2005年8月21日 東銀座にて)

【納涼歌舞伎 「法界坊」について】

■納涼歌舞伎(*1)へのご出演はいつ頃からですか?

そんなには納涼で役をやっていないんですよ。出始めたのは...98年に「小栗栖の長兵衛」で馬子と「荒川の佐吉」の最初の親分、あと「源氏店」で蝙蝠安やってますね。あ「浮かれ心中」に出てるなぁ...だから97年からですね、おじさん(伊勢屋太右衛門)の役で出てる。

■ 納涼は比較的若い役者さんが多く出演してらっしゃるようですが?

最初の頃は富十郎のお兄さんが出てらしたりしましたけど、この頃は勘三郎さん中心に三津五郎さん、橋之助さん福助さんなど若手が役をやっていくところです。まぁ今はもうみんな若手じゃなくなっちゃってますけどね、だから今は勘太郎さん七之助さんとか染五郎さん獅童さん達が出てますね。

■通常は昼夜の二部制ですが三部制になることで違いはありますか?

我々は特に違いはないですねぇ。

■”納涼”として特別なことはありますか?

特にないです。まぁ初めて「野田版 研辰の討たれ」をやったのも納涼歌舞伎ですし、串田さんが今回初めて歌舞伎座でやるのも納涼歌舞伎ですが、たまたまでしょうから。

■串田さんが歌舞伎座では初めての演出です

ご一緒に仕事するのは多いですね。

■野田さんが初めての歌舞伎座だった時と串田さん初歌舞伎座での印象は?

野田さんとはその時が僕は仕事が初めてでしたからね。野田さんはこうゆうやり方をするんだ、串田さんはこうなんだって。

■“歌舞伎座”ということで今までと違うことはありましたか?

いえ、別に。まぁただ歌舞伎座って本当に舞台が広いんですよ。ある意味では広過ぎちゃって観難い部分があるんですけど、そこを巧く解決するようにいろんなことを考えてらっしゃいました。

■舞台上に中村座があり、見た目に楽しく空間も埋まっていたと思います

串田さんの試みという感じでしょうね。ずっと毎回いろんな試みをしていらっしゃって。

■「法界坊」(*2)は中村座で上演した時と違いが何かありますか?

基本的には何も変わらないですよ。劇場の大きさでお客さんに伝わる部分が違がったりはしますよね。だからそれは舞台で役者がやってて増やすところと削るところあるんじゃないですか。それをどこまでやったらいいかっていうのを見るのが演出家だから。演出の手法というのは劇場によって皆さん変わることがあるでしょうが基本的な考え方は同じです。具体的にどうこうというのじゃなくて、例えばひとつのお芝居を歌舞伎座で何日やっててもその日のお客様によって自然とかわります。

■その日によって変わるということですか

それはもう一期一会で生き物みたいなもんですからね、お芝居は。

■たしかに2回拝見してそれぞれ印象が違いました

それはやっぱり不思議なもので、役者は毎日気持ちは一緒でやってますけど、お客様も一緒に参加してるってことですよね。

■中村座とは押戻し(*3)の雰囲気が変わりましたね

今回は串田さんが法界坊人形を作って「こういうイメージ」っていうのを出されたので、それで衣装は新しくデザインし直しました。鬼の色も全然違いますよね。大きい違いではないですけど雰囲気的にちょっとモダンな感じはするかもしれません。

■インパクトが強くなった気がします

勘三郎さんの表情も笑う部分もあるけど、怖い顔した時はすごく怖い顔になりますね。

■権左衛門(*4)が斬り殺されるところも変わったのでは?

そうですね、あそこも中村座の時はちょっと笑いで(両腕を斬り落とされてから)徳利踊りなんてやってたりしましたが、今回はそ法界坊の少し怖い部分をみせるように何もしなくなりました。その前後はお客さん結構笑ってるんですが、僕の死ぬところってシーンとしてますね。

■ただ無残に殺されてしまう

そういう残酷な部分もクローズアップされている。

■より歌舞伎っぽいのでしょうか?

串田さんがより根本的なところを掘り下げてるのかもしれませんね。

■串田さんはコクーンの「桜姫」でも掘り下げてやってらした?

串田さんはいつもご自分の世界で考えてらっしゃるから、

■串田「法界坊」は中村座だけではなく他の劇場でもできる作品だと

そうですね。ただ、あくまでも串田さんも今いろいろなことを試しながらなさっているので、また違ったことも考えられるかもしれない。やっぱり演出家として串田さんっていつも研究してらっしゃるし。 我々のことを形作って「こうやって」っていうんじゃなくって「いや、そうじゃなくってもっとこんな雰囲気のさ...」ってアバウトな言い方でおっしゃいます。その中から個々の役者のいろんなものをたくさん引っ張り出そうとして考えてらっしゃる。役者としてはすっごい悩むんですよ『何でそんな難しいこと言うのよ』みたいな。でも後で振り返ってみると串田さんによって変えられたところとかありますよね。

■ 具体的なことはおっしゃらないのですか?

まぁ具体的な言い方もなさいますけど、何かを引っ張り出そうとなさいますね。 今回なんて勘太郎さん舞台でなんとも良い味が出てすごく面白いでしょ。でも稽古の時にすっごい悩んでらして、串田さんがいろんなテーマを出して。お稽古中はお父様にも「へたくそ」とか言われてすっごい悩んで放心状態になるくらい悩んでました。けど僕はもう安心してたんですよ。絶対グレードアップすること間違いないと思ってたので。串田さんもそれを計算してちゃんとお稽古つけてらっしゃったし。

■串田さんが一人一人に合わせて引き出したものなんですね

そうですね。

【5月歌舞伎座 中村勘三郎襲名披露興行 千穐楽について】へつづく

(参考)

*1 納涼歌舞伎

歌舞伎座では通常昼と夜の二部制だが8月の公演は三部制。上演時間・値段ともに手頃(一番安い三階B席は1,680円)なためか若い層にも人気が高い。納涼歌舞伎で大役に挑戦する役者さんも多い。今年は第三部に「法界坊」で串田和美さんが歌舞伎座演出デビューというのも話題。中村座を模した2階建てセットを舞台両袖に配置して人形の観客を並べるという遊び心のある装置だった。
2005年の納涼歌舞伎
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*2 法界坊

本名題は「隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)」。平成の芝居小屋として2000年11月に浅草河川敷に現れたテント芝居小屋、平成中村座の第1弾として上演された。仮設の利点を活かし2002年11月には大阪扇町公園にテントを移動して再演された。
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*3 押戻し

派手で強そうな荒武者が揚幕から足音高く登場し、本舞台から花道に出てきた怨霊などを再び本舞台へ押し戻す。怨霊と武者とが引っ張り合いのポーズ(引き事)で決まる荒事芸の場面のこと。
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*4 権左衛門

永楽屋権左衛門/「法界坊」
娘のお組に横恋慕する法界坊によって斬り殺される。両腕を斬り落とした法界坊が「見世物小屋で徳利娘なら見たことあるが、こいつは徳利じじいだ」などと残忍なことを言う。
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