四〇○年 時空の旅人
(Joy since 04.01.2003)
 弥十郎さんのインタビューは今月末に次回を予定してます。今回はちょっと脱線して「歌舞伎鑑賞教室」について。オススメの公演があります。(2003.5.5)

【特集】歌舞伎鑑賞教室ってどんな教室?

 国立劇場で毎年実施している歌舞伎鑑賞教室。学生時代、学校行事として連れて行かれた人も多いのでは。何観たか覚えてます? 誰が出てた? 『お姫さまが出てきた』とか『大勢が何か言ってた』って殆ど記憶に残ってない人が大半なんじゃないかな。正直言って行事として鑑賞しに行ったものを楽しいこととして記憶に留めておくのは難しい。ド派手なパフォーマンスがあったとか某大河ドラマで見たことがある話だった、とか。何でもいいから目立つ舞台だったらまだしも、かつての鑑賞教室は地味でお硬い演目が多かったのだもの尚更だ。

 学校団体向けに料金設定が低い、ということでコストを抑えた作品をやらざるをえない。つまりセットも衣装も通常公演並の派手派手には出来ないのである。そして中学生への教育的配慮もした演目選びとなると、一目で楽しいと思ってもらえないのも不思議はない。しかも自発的な観劇なら準備も楽しけれど、授業で下調べさせられたりして、行く前から面白いとは思えない刷り込みが出来上がってるんだもの。連れて行かれて客席で過ごす数時間は早く終わるのを願いつつただ堪えることになる。

 そんなこんなで体験している人が多い割に印象の薄い鑑賞教室だけど、いざ自分から「歌舞伎を観てみたい」気になった時には実にありがたい存在だ。

  • まず値段が安い。団体発売後の端数席で数が少ないが一階でも3,800円だし二等だったら1,500円と映画一本観るより安い。国立劇場は舞台との距離が近いので三階だって充分見易い。
  • それに演目のあらすじや歌舞伎の基本的な約束についての解説が載ったパンフレットを入場時に無料で貰える。
  • はじめに「歌舞伎のみかた」というコーナーがあり、これから観る芝居の粗筋を解説してくれる。若手役者が担当するのだが、じつはこれが面白い。裸舞台でセリや周り舞台などを実際に動かしてみたり、小道具の仕掛けのネタばらしをしたり。歌舞伎に限らず芝居好きにはなかなか興味深いことをやってくれる。
  • 時代物には同時通訳の電光掲示板が登場し台詞を理解しやすくなった。上演台本は販売されているので気になったセリフなどあれば買って読むのも楽しい。

 この数年は演目もお堅い一方ではなく観て楽しいものも増えているし、昨年は「歌舞伎のみかた」を映画『ピンポン』に出演した中村獅童さんが担当し、解説でカーテンコールという珍しい事態もあった。

 今年も鑑賞教室は6、7月に国立劇場にて実施される。

 6月の『与話情浮名横櫛』(よわなさけうきなのよこぐし)は話自体を知らずとも「いやさお富、久しぶりだなぁ」という一度は耳にしたことがあるだろう有名な台詞が出てくる芝居だ。現代語に近い言葉で会話が進む世話物(*1)なので聴き取るのもさして苦労はないだろう。更に今回はお富と与三郎が出会うところから芝居が始まる(*2)のでかなりストーリーを理解しやすいはずだ。午前の部は13時頃終演だからマチネ観劇前に立ち寄ることも可能かも。学生に混ざっての観劇というのもちょっと変わった体験だろう。

 6月歌舞伎鑑賞教室の一般発売は5月6日(火)電話予約開始。詳細は国立劇場のサイトで。

  国立劇場

*1 世話物(せわもの)
 作品が書かれた当時の現代を描いた主に町人が主役の芝居。一般人は武士のような固い言葉を使ってた訳じゃないから比較的今の言葉に近いので聞き取り易いはず。

*2 出会うところから
 歌舞伎は一つの物語を全て上演するには一日で納まらないほど長い作品が多い。その全てが面白いとも限らないので、初演の後は面白い場面だけを抜き出して繰り返し上演するようになり、今では全体が残っていないものさえあるのだ。いい場面だけ上演する、というのは『物語の前後の脈絡は御存知ですよね、お客さん』と暗黙の了解を求めてるとも言い換えられる。まぁ前後を知らずに観ても楽しめないこともないが、人間関係など複雑な場合には予習が必要となる。この「与話情浮名横櫛」も与三郎がお富と再開する「源氏店」だけ、また二人が出会う「木更津海岸見染め」との2場面を取り出して上演することが増えている。今回「赤間別荘」では二人の不倫現場を押さえたお富の旦那が与三郎を半殺しにするシーンが上演されるので物語の展開が判り易い。

    感想メール待ってま〜す(Joy)
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