歌舞伎発祥400年。阿国は当時最先端の変わり者、つまり“傾(かぶ)き者”だったのに、今では伝統芸能なんて骨董品めいた響きに敬遠されがちな歌舞伎。とはいうものの江戸時代から生きてる役者がいるわけじゃなし。80歳超のベテランもいるが平成生まれの子供まで幅広い年齢層の現代人が演じてるんだもの。コンビニに携帯電話の普通の生活から江戸の暮らしへと、自在に行き来し変身する歌舞伎役者はまるで時の旅人のよう。そんな旅をちょっとのぞいてみよう。旅人のひとり、坂東弥十郎さんに根掘り葉掘り。(Joy) |
弥十郎さんインタビュー第四弾(3) 【納涼歌舞伎 第二部のこと】 ■納涼のお稽古はどの位でしたか? 8月1日から始めて初日が10日だから9日間。我々にすれば結構たっぷりですよね、でも普通の舞台としては少ない訳じゃないですか。だからここに外部の人が入ったら、やっぱり苦労なさるでしょうね。 ■9日間全てを法界坊だけお稽古されている訳でもないですよね そうです。5、6日からは他の芝居も入ってますから。 ■弥十郎さんは「法界坊」のほか二部に2本ご出演ですね うちの息子(坂東新悟さん)が出してもらうことになって「だったら奴に出ない?」っていう感じで。おかげで昼ご飯食べる時間がなくなっちゃったんですけどね。ただ、楽屋入りがゆっくりだからまだ。ただ、入ったらもう...お鹿やって、お風呂上がったら奴に出て、引っ込んできたら次の衣装着るまで15〜20分しかないですから。顔洗って顔しておじいさん(笑) ■3つとも全く違う役柄ですしね 違うんですよ。忙しいです。 ありがとうございます。僕はとにかく可愛く出来ればいいなと思って、ある部分この人は全く何も関係ないのに踊らされちゃってる。 ■千代紙人形を可愛がったりして、まだ若い娘なんでしょうか? いや、ある程度の年齢の人でもお人形を可愛がったりしますよね。だからそういう性格の人なんじゃないですかね。純粋な、手紙でやり取りしてるだけで、お女郎さんなのに入れ揚げちゃう。そんな人が殺されちゃうのが可哀想で。 勘三郎さんから伺ったんですが、先代の中村屋(十七代目中村勘三郎)さんがなさった時には最後殺されるところは出なかったらしいです。あまりにもこれは可哀想だって、そうなさったらしいですよ。 ■可哀想なのに殺される場面で客席から笑いが出る時がありますが 僕も結構笑われてますよ。さいご首がぽろんってなるとこで。 ■そういう受け止め方でいいんですか? そういうキャラクターだから笑われるのは問題ないと思います。ただ、死んでる格好がおかしいから笑われるけど、後で考えたらかわいそうよねっていうんでいいと思います。そこでただ可哀想をあまり立てちゃうと貢(*9)が悪い人になっちゃうじゃないですか。普通に考えたらあれだけ人を殺してめでたいな、なんていう話はあり得ない事ですから。でも、それが歌舞伎のうそだから、ただお鹿だけ考えて、ただ可愛く哀れでやっちゃったら違うかもしれないです。そのぎりぎりの線だと思いますよ。 ■貢は自分自身のためじゃなく主人のために大勢殺す人です それはある意味武家社会を表してるんだろうし、それをこう、少しからかうではないけれど作者はそういう見方をしてるんじゃないですか。 ■「京人形」の奴・照平(*10)は登場してすぐに人を斬ってしまいます これは舞踊劇と言うこともあって物語的にはあんまり考えずに観ていただくものですね。だって、斬っておいて間違えましたごめんなさい、なんて勝手に帰っちゃう。そんなの有り得ないじゃないですか。それがそんなに気にならずに観られれば。ま、とにかく息子がちゃんとセリフを言えるかどうかだけで、ドキドキしてるだけです(笑)。 ■今までに新悟さんとの共演は? 初舞台(1995年7月「景清」保童丸役)の時もそうですし、「野田版 鼠小僧」や中村座の「文七元結」で長兵衛の家のとことか一緒でした。今回は一緒に手を繋いで引っ込むんですけど、ちゃんとやってるのかどうか後ろにいるから僕は見えないんです。まぁぼーっとしてますよ。僕もあの頃はぼーっとしてたけど。でも芝居が好きで、照明室とかで毎日観てますね。顔(=化粧)も今月から自分でして。毎日研究しながらやってるみたいですよ。 ■弥十郎さんは女形のお化粧をあまりなさらないですよね いゃ僕も資生堂でメイクの講師をやったりしているので一応基本的な女形の顔って言うのは僕が教えて。僕が舞台(伊勢音頭)に出てる間に一人で顔をやってるんで、たまにみて下さってる女形さんが何人かいらしゃいます。三津五郎さんのとこの玉之助さんとかたまについて色々言ってくれてるんです。 ■新悟さんは今おいくつですか? 14です、まだ。12月で15歳になります。 ■変声期は過ぎましたか? どうなんでしょうね。今のところ女形の声として一応出ています。あとはまだ全然肚に息が入らないのでそれを稽古しないと。まだ苦しそうな顔をしながら喋るので。 ■呼吸ですか? まぁ慣れないと難しいですね。あと未だに緊張してますからね。毎日震えてますよ舞台で。まぁそれはある意味いいことなんです、怖さを判るから。 ■お友達は遊んでる夏休みに舞台出演ですがご本人の希望ですか えぇ好きで。逆にちゃんと宿題やらないともう舞台出さないぞって。舞台出して貰うために一所懸命勉強してますよ。当人は出たい訳ですよ。 ■女形さん志望ですよね そうなんですよ。立役はできないって言うんで。まぁどうなるか。身長とかはかなり大きくなっちゃったんでねぇ、どうなるのか。 ■どのくらいありますか? もう今177-8cmあるんじゃないかなぁ。まぁ痩せてるからまだ何とか。 ■同年代の方達が大きくなっているから昔の人程は目立たないのでは? いやぁでも...今女形をやってて彼と同じかそれより高いのは松也君くらいですよね。松也君は二十歳だけど、あいつは14でまだこれから伸びる可能性はある訳ですからどうなるか。まぁ当人の人生ですから。 ■夏休みが終わるとまたしばらくは出られないですか? いやそうでもないです。中学さえ卒業しちゃって、お役を頂いて当人が出たければ。あとは学校を休んでも普段勉強を頑張ればいいわけですから。今までに先輩たちがやってきてることですからね。 ■来月は久しぶりにお休みですね えぇ4日から2週間ほどスイスへ行ってきます。10月からはまた当分休みがないようなので、のんびりしてきます。 (参考) *8 お鹿/「伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)」 滑稽な姿をしている道化役の女郎。決まった恋人がいる主役の福岡貢に惚れてしまい、それを知った仲居の万野が貢のふりをしてよこした手紙に騙されて金をせびり取られる。信じていた貢が会った時に冷たいのをなじり初めて真相を知るが、無関係なことで怒り狂った貢に斬り殺される。 *9 貢さん 福岡貢。伊勢の御師(※)の出で元主人の今田万次郎のため家の重宝「青江下坂」の刀と折紙(鑑定書)を取り戻そうとしていたが、誤解がもとで青江下坂の刀で多くの人々を斬り殺した。 *10 奴照平(やっこてるへい)/「京人形」 主家筋の井筒姫を匿っている左甚五郎を敵と勘違いして登場するなり斬付ける。実は恩人と判って詫びを述べ姫と共に逃げていく。 |
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